亡くなった方にお供えするご飯のことを枕飯と言います。この霊膳のご飯を毎日作り変えるのか、1回作ったらそのままでよいのか、よく聞かれます。
明治のころまでは死者にお供えするご飯は1膳だけだったので、生きている人間が食べるご飯を1膳で終わらせることは死者と同じになるので縁起が悪いと考えられていました。
明治以前の食卓は1膳目を少量にして意図的にお代わりをして2膳食べていたようです。
そのような風習やしつけも現代ではほぼ見られなくなりました。私自身も死者にお供えするご飯を1膳飯と言うので1回作って同じものを葬儀が終わるまでお供えしておくと思っていました。
しかし、あちこちの家庭を見ていると、一度作ったら葬儀が終わるまでそのままの家庭と、毎日作り変えている家庭に分かれています。インターネットで調べると毎日変えるという意見が多いですが、作るのは1回だけでよいという意見もあります。
さて、石川郡での昔のお葬式を地域の長老様方に聞きますと枕飯は、
庭のたき火で炊く。
一番古い鍋を使う。
鍋に蓋はしない。
かき混ぜながら炊く。
孫の仕事。
使った鍋は1週間は使用しない。
だったようです。
このことから考えますと枕飯は一度炊いたら葬儀が終わるまで同じものをお供えしておくのが昔の習慣だったと考えられます。ちなみに毎日作り変える地域は下げたご飯を半紙で包み棺の中に納めて火葬していたそうです。このような風習は近場では聞きません。
ただし、長老様方が言われる葬儀では亡くなった日の次の日が通夜。二日後に葬儀と言う日程が当たり前でしたので、膳にカビが生えたりしなかったでしょう。近年は亡くなってから葬儀まで4日から長くて1週間以上かかる場合もあります。ご飯やみそ汁の表面にもカビが生えることがあります。ではどうすればよいか。
庭のたき火で孫が炊くことが無くなりました。枕飯を炊くのに使った炊飯器を1週間使わないという人もいないでしょう。昔とは条件が変わりました。必要に応じて作っても良いのではないでしょうか。100年前の“死者は1膳だけ”という話を知っている人もいなければ、1膳飯を嫌う人もいません。
毎日新しいお食事をお供えしてもいいでしょうし、昔の風習に合わせて1回お供えで終わっても良いでしょう。日本には通夜の日だけ新しく作る習慣のある地域もあるようです。これなら通夜、葬儀の時にご飯にカビが生えていることもないので合理的な風習かと思います。
大切なことは忙しさと悲しみの中にいる遺族に「やり方が間違っている」と言わず、無理せずできる範囲で。
供養の心が一番大切と思っています。